今後30年以内に発生する大地震の確率が一段と高くなった今、いざという時の準備も現実感を帯びてきた。そこで、災害時の必需品であり、唯一の楽しみともなる防災食を女性3人に試食してもらった。どうせ防災食だから美味しくなくて当たり前、そう思いがちだが、どうやらそれはひと昔前の話。意外や意外、今の防災食はかなり美味しいことがわかった。

 試食してもらったのは、30代のFさんとKさん、60代のTさんの3人。日ごろから防災食を準備しているのは、4歳の子供がいるFさんのみで、水とアルファ米、ビスケット、缶詰といった内容。ほかの二人は「缶詰やレトルトは家にあるし…」といった理由で特別な備えはない。3人とも防災食を食べた経験はなく、「乾パンってどんな味?」「いざという時、本当に食べられる味なのかしら」と、今回の試食にも興味津々だ。

 実際に食べてもらったのは「美味しい防災食Sセット」(1人2日分)。さば味噌煮、筑前煮、肉じゃが、ハンバーグ煮込み、きんぴらごぼう、ソフト金時豆、牛丼の具が各1袋、らーめんと白粥が2袋。これに紙皿10枚、割り箸10膳、プラスチック先割れスプーン2本が付く。らーめんはお湯を入れなくてはならないが、そのほかはウエットタイプなので、そのままでもお湯で温めても食べられるのが特徴。UAA(ウルトラアンチエイジング)製法※で、保存料不使用で製造後5年の長期保存ができるというものだ。今回は給湯器のお湯で温めて食べてもらった。


※原材料を下処理し、調理した食材をバリア性のある4層パウチ袋に入れ、空気を排出した後に不活性ガスを充てんして密封。酸素と光を遮断し、コンピュータ制御による多段階の昇温、下温殺菌システムで長期保存を可能とした製法。

 食べ物は目でも楽しむというが、「ニンジンなど野菜の色がきれい」「筑前煮や肉じゃがも煮崩れていない」と見た目に関しては3人とも好印象。なかでも筑前煮は「いろいろな具材が入っているので、栄養バランスがよさそう」と、食べる前から期待感がアップ。実際に食べてもらうと、思わず「美味しい」と声が上がったほどで、味の面でも合格点が出た。これは、防災食=まずいというイメージが大きいので、予想外に美味しいという点も考慮しなくてはならないが、「私が作るのより美味しいかも」という声も聞かれたほどで、「きんぴらは、ごぼうがシャキシャキしておいしい」「筑前煮はこんにゃく、ごぼう、里芋の素材感が生きていて味もしみている」「さば味噌煮は合わせ味噌が美味しく、定食屋さんのような味」「牛丼の具や肉じゃがは甘すぎず、具材も多く豪華な感じ」など、普段の食事と比較してもレベルはかなり高いとの評価を得た。

 一方、「全体に塩分が濃い」というのは3人に共通した意見。今回はおかずのみで食べたので、より塩味が強く感じられるという面もあるが、「夏場の災害を考えれば、汗もかくだろうし、塩分補給は大切」「塩味が濃いほうが疲れたときなど美味しく感じるのかも」と、塩味の濃さも納得できる範囲といえそうだ。味の面での評価がいまひとつだったのがハンバーグ煮込み。「レトルト感がある」「見た目も普通」など厳しい意見が出たが、一方で「子供が好きな味」との声も上がった。

 3人とも防災食=美味しくないというイメージは今回の試食で一変。「防災食というと乾パンなど乾燥したものというイメージだったが、本物を食べていると感じられ、豊かな気分になれた」「今まではカロリー確保ばかり考えていたが、ちゃんとご飯を食べようという気持ちになった」「日本のおかずという感じで美味しく食べられ、災害時には気持ちが明るくなるはず」など、美味しさを実感。飢えをしのぐだけではなく、前向きに生きる力のひとつとして防災食を考えるようになったそうだ。東日本大地震の時に子供が2歳前で、子供の防災食に頭を悩ませたというFさんも、「これなら安心して食べさせられる」と防災食の幅の広さも感じたようだ。

 試食した「美味しい防災食Sセット」は、1人約2日分で10,500円。一般的なレトルト食品や缶詰などと比較すると少し割高だが、「賞味期限5年なので、1年当たりにすれば約2,000円。そう考えれば高くないかも」「東日本大震災の時のようにスーパーに何もない状況やライフラインが止まってしまうことを考えれば、常温でこの美味しさなら買ってみようと思えるかも」などの感想。3人とも働いているので「会社でぜひ備蓄してほしい」との意見も出た。防災食をどうとらえるか、その価値をどう判断するか、新たに考えるきっかけになる、新しい防災食が誕生したことは確かだ。